読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

シャコ・エビ日記

シャコパンチ、エビパッチン研究者の記録

記憶、とまでいかないが、ザリガニの平衡感覚の補償のメカニズム

昆虫などは比較的単純な神経系をしているので、いくつかの匂いや化学物質と電気ショック辺りを組み合わせた記憶学習を幼虫のときにさせておいて、その反応がどの程度さなぎのステップを経て残っているのか、どういうタイプの記憶であれば残りやすく、どういうものであればないのか、など簡単に実験できることはいくらでもあり、今の分子生物学的な手法を、電気生理学的な方法と組み合わせて用いれば、それはいったいどの神経群の働きによるものなのか、ぐらいは丁寧に実験すれば分かるのではないかと思うのですが、こういうことに関心を持つ人っていないのでしょうか。

虫の記憶はさなぎを経ても残るのか? - ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Being between Neuroscience and Marketing


僕のいる研究室では、これに似た問題に興味を持っています。うちではアメリカザリガニを用いています。彼らは脱皮ごとに"平衡感覚器官"である平衡包を脱ぎ捨ててしまいます。そこで、脱皮後も酔っ払いのようにふらふらすることなく平衡感覚を取り戻す中枢機構、すなわち、中枢性補償の機構が存在しています。この問題に電気生理学的に取り組んでいます*1


ただ、この仕事をした先輩も博士をとってから民間企業に就職され、その実験系で細胞群を同定するテクニックを持っている人が今はいなくなってしまいました。僕も同様のテクニックで研究していますが、実験系が異なると予想しない問題もありますし、そもそも細胞群の同定が相当熟練を要するテクニック*2なので、研究は今は止まっています。分子生物学とのコラボもおもしろい課題だと思います。


id:kaz_atakaさんはおそらく脊椎動物のニューロ・サイエンティストでしょうが、こうした無脊椎動物の問題にも興味を持っていらっしゃるようです。我々のような脊髄のない動物*3の研究者として、この業界を盛り上げたいところなので、興味を持ってもらえたような記事を読んで少しうれしくなりました。


この話題についての詳しい解説については、ボスが書いた研究室のサイトをご覧ください。また、昆虫・甲殻類の神経行動学の体系的入門書としては、以下の二冊を紹介します。



昆虫―驚異の微小脳 (中公新書)

昆虫―驚異の微小脳 (中公新書)

*1:[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17534936?ordinalpos=6&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum:title=研究室の先輩の仕事]

*2:クラッシカルな方法ですが、微小電極による細胞内記録・染色法といい、未だ健在の非常に強力な神経生理学の手法。

*3:昆虫・甲殻類ではかわりに腹髄なるものが存在します。