シャコ・エビ日記

シャコパンチ、エビパチン研究者の記録

簡単に説明できることは簡単にしたいものだ

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


後追いだが、気になったので、買って読んでみた。
ロザリンド・フランクリンを持ち上げて、彼女の徹底的な帰納による仕事が、DNAの二重らせん構造モデルの骨子になったことをあげている一方、著者の“動的平衡”という考え方がトップダウンで語られる。5章の「サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ」のマリス博士の話、6章の「ダークサイド・オブ・DNA」、7章の「チャンスは、準備された心に降り立つ」は、生物系にはなじみ深いエピソードだが、面白いかなとは思う。
だが、最後に膜タンパクのGP2とプリオンの話が出てきて、主にプリオンの場合、ノックアウトマウスにしても正常個体;ノックインマウスにしたら異常個体という結果;つまりドミナント・ネガティブ現象を挙げている。これが起きるのは、生物が動的平衡の性質、寛容性を持つからだ、という*1
僕は、これはちょっと飛躍しているように思われる。ドミナント・ネガティブ現象を説明するのに、WikipediaにもMolecular Biology of the Cellにも動的平衡に類することは出てこない。単に他の分子との相互作用の話が出てくるだけだ。多数の因子が相互作用を必要とする話は、少なくとも、ドミナント・ネガティブを説明するには必要ないように思われる。
動的平衡という考え方自体を否定するつもりはないが、厳密さをあまり必要としない一般書だからといって、不必要に枠組みの大きい考え方で、個々の現象を説明しようとしているのは、何とも後味が悪い。別に生物が特別やわらかいと言わなくても、機械としても冗長性を持たせた設計をすることで同じメカニズムを実装できそうだし、ドミナント・ネガティブな現象は生物に特有でもないと思った。
もっと単純なモデルで説明できることをことさら大きく飾り立てて話をつくっている印象を受けた*2

*1:単に恒常性と言ってもいいような気がしている。たぶん、多数の要素からなる全体の創発性をいいたいのだろう。

*2:動的平衡という思想を布教したいかのよう。