シャコ・エビ日記

シャコパンチ、エビパチン研究者の記録

学会誌に載せる草稿

風邪を引いてしまい、体調が悪く、文章もいまいち書き進まず、皆さんのコメントなど頂けたら、幸いと思い、掲載。前に掲載したのも実は下書きでした。

  • 研究するもの

部屋が狭くなってきている。今年でここに住んで7年になる。先輩に「お前はリスだな」と言われたことがある。先輩がいらなくなったものをもらって、家にため込んでいるからだ。あまり取り込みすぎると、ものがどこへ行ったか分からなくなる。しかし、整理すれば、自分で使うことができる。
生き物はいろいろと中にため込むことをする。巨大シダ類たちは太陽エネルギーを蓄えることをした。彼らの遺骸が石油や石炭になった。今我々は生物が億単位で蓄えた遺産を100年単位で消費している。それがとっても賢い我々、ヒトというものらしい。一番エネルギーを使っているのは、脳。脳を使って何をしているかというと、一生懸命外部にあるものを情報に変えてため込んでいる。ため込んだ情報を整理しようとヒトはがんばっている。私もがんばっている。
私はよく「お前はよくエネルギーを無駄に使うなぁ」と言われる。生協の食堂で頼む定食のご飯のサイズは必ず、「L」である。中央食堂のおばさんも、顔を見てL以上に盛ってくれる。「それで何人のアフリカの子供たちが救える?」と言われるが、「頭を使っています」と言い訳をする。ため込んだ情報を整理するためにエネルギーを使う。だが、実は得られたエネルギーのかなりの部分を、水泳のトレーニングに費やす。水泳とは20年来の付き合いだが、体を使ってやらないとどうにも調子が悪い。ため込んだものは全身で使わなければならない。
私は何でもため込む。自分でどうにかして、ため込んだものを使う(全身を使う)。それで、生きている。気になるのは、どう生きているかということだ。

  • 研究されるもの

修士の研究発表のときに、「なぜザリガニは歩き始めるのですか?」という質問が出た。「分かりません」と答えた。一応、「ザリガニにも行動が活発なとき、そうでないときがあり、周期があるという報告はある」と付け加えはした。だが、これはそもそも「Why?」に関する質問で、「How?」に関する質問ではなかった。答えがずれてしまった。基本的に今取り組んでいるのは、「How?」の問題だった。そもそも「Why?」の質問に答えることができるのか疑問だが、「How?」に読みかえれば答えが出そうな気がする。ザリガニはどう自由するかと。
ザリガニにも全身を使ってもらう。無麻酔全体標本アメリカザリガニの自発性歩行の神経制御機構を調べている。動物の行動制御を調べるためには、適切な「刺激」を与え、反応としての行動を見るというやり方が一般的だ。ところが、刺激を与えないで引き起こされる行動の実験を行っている。ザリガニまかせというわけだ。この方が、ザリガニが自分でため込んだものを「自分で」どうにかできる。
よく「勝手にしろ」と言われるが、「まかせてくれるんですね。分かりました。自由にやります」と自分に言い聞かせる。そこで、ザリガニにも「勝手にしろ」と言う。できるだけ自由に歩けるように球形トレッドミルを改良した。いつ歩くかはザリガニまかせだが、歩いたらできる限りの情報が欲しいため、光学マウスで歩行行動を定量的に表せるようにした。ザリガニの脳内ニューロンからガラス管微小電極を用いた細胞内記録をとる。シナプス活動を含めて、できるだけため込んだことをどうするか見たいからだ。
ザリガニ任せはつらい。なかなか思うように歩き始めない。ザリガニはじっとしていることが多い。電極がささって30分何もしないこともある。時に悩んでしまうが、そういえば、はなっからそれが前提になっているのだった。ひたすらザリガニまかせにして、ことの起こりを内部にまかせて実験しているのだった。これまでの成果としては、自発的にザリガニが歩き始めるのに約500ミリ秒前後先行してシナプス活動の変化を示す脳内ニューロンがいくつかとれきた。銀染色した脳組織切片像と見比べる。樹状突起の投射部位を調べると、どうも伝統的に言われるとおり中心体、前大脳橋が自発的な歩行開始に重要だろうということが言えそうになってきた。それでも、この実験は「太平洋の真ん中で一本釣り」をしている感覚になる。やったことはないが。
要するに、明確な感覚刺激のない状態でザリガニがどうするか、ザリガニの脳内ニューロンがどうするか見ている。「外部刺激がない」というと「そんなの分からないじゃないか」と反論がある。「未知の外部刺激がある」という反論だ。しかし、我々人間に感知し得ない未知の刺激を考えるとして、ザリガニがそれに依存して行動を始めるのか?もちろんその可能性は、ある。だが、私が気にしているのは、生物が何をため込んで、処理し、全身を使い、生きているのかということだ。「生き物は自分でどうにかする」能力がある。これからまだまだ「ザリガニが自分でどうにかする神経機構」を探っていきたい。